--------------2010/06/10追記ここから--------------
2ちゃんねるのコピペで
毎日新聞:こういったトラブルを想定してあらかじめ回路を積んだのか。
國中:そうだ。こんなこともあろうかと。
というのがあるようですが、
記者会見では「こんなこともあろうかと」は仰ってませんからね。
元URLでの記述を確認せず転載される方がいらっしゃるようなので野暮を承知で念のため。
--------------2010/006/10追記ここまで--------------
帰還継続可能と判明してから10日。
関係者の方々、少しはお休みになる時間がとれたでしょうか。
11/12 01:00 頃(ニコイチ運用後初の可視時間帯)とか11/19 夕(記者会見開始直前)とか、そういう情報取扱上クリティカルな時間帯にここをご覧にならなくても、私は JAXA/ISAS 関係者との個人的なコネクションは一切持っておりません。情報漏らすどころか情報が入らない身なので大丈夫ですよ。だからとにかくお休みになれる時は休んで下さい。
(むしろ11/12のアクセスで「あ、ウチを見るような心理的余裕ができたなら状況が確定したんだ」という推測ができてしまいましたよ?/笑)
今の状況においてなお「はやぶさ」が生きていることを私は「奇跡」と言いたくありません。関係者さんがたが「はやぶさ」を生かすため過酷な状況にいらっしゃることは察していますから。
──とはいえ、他者に「はやぶさ」を紹介するにあたり「彼らは『こんなこともあろうかと』を現実世界でやっている」という言い回しをすることはあります。人的・金銭的リソース不足に由来することなので内心忸怩たるものを抱えつつ。
↓の動画までいくといっそ気持ちいいけど、2005年末から「はやぶさ」を追っかけている私の目から見ても「これ実話なのか!?」と言いたくなる(笑)。
おそらくは「2ちゃんねる」のニュース系のスレッドに書き込まれた文章が元ネタと思われます。
厳密な点では誤りが見られますが(※)、厳密にしても回りくどくなるのでだいたい合っていれば十分だと思います。むしろこの勢いの良さはお見事。
※元ネタの文章に誤りがあったようです。ニュース系のスレッドはレスポンスの速さのために正確さを多少犠牲にする必要がある……のかな、多分。
一応、それぞれ可能な限りソース付きで示すと:
01:31
残り2基と化学スラスタで制御できるようにしてある
RW2基で姿勢制御できるようにしてあった点はマジです。
→
当初より2基の運用も想定しており、運用に支障はなく
が、2010/05/06の和歌山大学宇宙教育研究所開所記念講演会『7年ぶりの地球帰還!小惑星探査機「はやぶさ」の物語』にて吉川准教授が「RW2基での姿勢制御は化学スラスタを使わない(RWのみで制御する)ものだった」由発言されたとのこと。
どこまで変態だ。
02:29
充電を繰り返しつつ、自動で姿勢を制御するよう造ってある
通信途絶時の充電は偶然。「はやぶさ」が「
勝手にバイパス回路をEnableにして7個の電池を生かしておいてくれ」たもの。
自動で姿勢が「安定」するのは本当。さすがに「制御」は無理。
→
現在のコーニング運動は、最終的には +Z 軸まわりの純スピン運動に収束していきます。
02:35
信じて待つんだ!!
マジです。……と言ってもただ待っていたわけではなく、
送信、受信周波数をどんどん変えながら「はやぶさ」の電波を探していました。
なお動画では「3ヶ月後」となっていますが正しくは「1ヶ月半後」。
2005.12.09 通信途絶
2005.12.14
通信回復予測が発表される ←ご注目
2006.01.23
「はやぶさ」からのビーコン受信
2006.01.26
地球─「はやぶさ」間の双方向通信が可能となる(「はやぶさ」はyes/no のみ送信可能)
2006.02.25
テレメトリ取得が可能となる(通信復旧)
さすがにビーコン受信時のリアクションは「ほら来た」とはならず「
間違いではないかと、地上局のアンテナをわざと振って、確かに「はやぶさ」がいるべき方向からの電波だと、いわば自らのほおをつねって確認した」とのこと。
03:18
中和器の向きを微妙にずらしておいた
これは偶然そう作られてたのを土壇場で活用したもの。
→
川口淳一郎教授も、 「これはたまたま運がよかっただけ」と話す。 (2006/06/02朝日新聞夕刊)
なお動画中に「(エンジンからのガスで姿勢制御しようにも)噴射方向が全然違う」とありますが、後にエンジンからのガスで姿勢制御する技術を手に入れています。
イオンエンジンはジンバリング(傾きを与えること)ができるので重心を外した力(=回転力)を与えられる由。
「
推進剤の効率を考え、イオンエンジンでの姿勢制御がメインになりつつある」(JAXA i マンスリートークにて。
実際の音声ファイル)と語られたのが2007年05月なので、現在はもうその方式がメインになっていると考えて良いはずです。
03:33
回転軸が機体の中心を貫くよう設計していた
マジです。上掲「+Z 軸まわりの純スピン運動に収束していきます」のこと。
03:36
太陽光圧を利用してスピン安定状態に
マジです。これは土壇場運用。
→
太陽光圧力は、はやぶさ探査機の表面反射率に左右されますが、その程度は未知でしたから、実地に経験を積んで「姿勢制御術」を習得しました。
ソーラーセイルの「
良き練習台(テストベット)なのです。」とはエンジン担当の國中教授談。スピン安定には
自動太陽追尾のオマケ付きです。
03:47
通常の充電方法では爆発の危険性がある
マジです。過放電したリチウムイオンバッテリは充電時に爆発する危険があります。
過放電を起こしたリチウムイオン電池は、決してご使用にならないようにお願いいたします。
04:05
古川電工
正しくは
古河電池。出自は古河電工の電池部門。
また、(バッテリ復活の件について)NTスペースも関わっています。
04:05
補充電回路
正しくは
充電保護回路。
(2010/03/06追記:
工学的には「過充電回路(overcharge cirkit circuit)」が正しい用語のようです)
バッテリ復活の詳細は
こちら。ごく弱い電流を流して充電。少しでも温度/電圧が上がったらすぐに OFF という切り替えを延々3ヶ月。
なお、このバッテリはカプセルの蓋閉め運用をもって役目を終え、2008年夏に
全セル死んだとのこと。
※ところでニコニコ動画のコメントなどではこの充電 ON/OFF 切り替えが1億3000万回に及んだ、とする言説をみることがありますが、おそらく火星探査機 PLANET-B「のぞみ」のショート回線焼き切り運用の話と混同していると思われます。少なくとも私は「はやぶさ」の充電 ON/OFF の回数の情報は見聞きしたことがありません。
04:38
イオンエンジン3基、ホイールは1基
マジです。すでに最後のホイールの故障対策は打たれています。
→
最後のホイールが駄目になった場合に備えて、イオンエンジンの噴射と噴射方向のジンバリングとで、三軸姿勢を維持しつつ必要な軌道変換を行うための検討を開始している。(2007年11月)
→ 2008/05/14 に
「
はやぶさRW-Z/IRU故障時対応用改修ソフトウェアの開発および運用準備一式」
に関して日本電気(NEC)と随意契約(No.1514)
→
平成20事業年度 JAXA財務諸表等に関する事項 III.事業報告書
(PDF / 20MB)P73より、平成20年度実績:
「イオンエンジンによる並進加速と姿勢制御の同時達成方式を開発し、
探査機のコンピュータに登録した。」
注:前後記載から2009/02の第2期軌道変換開始とほぼ同時期と思われる
→ 2009/10/10 日本航空宇宙学会中部支部 航空宇宙フェア'09 での講演にて
「(最後のホイール故障に備えた姿勢制御の)プログラムは既に
『はやぶさ』に送信済」
と國中教授が発言
→
不明 ホイールがダメになったらもうギブアップか。
川口 その場合も方策は考えているがかなり致命的だと思う。
05:42
エンジン同士、予備回路で繋いでおいた
正しくは予備の回路ではなく「対応できる電源回路として組んでおいた」。
→ 川口:ちょっと盛り上げるなら、これは電気回路にダイオードが一つが入っていないとできない。あらかじめそういう回路を組み上げ、搭載して打ち上げたということを注目してもらいたい。
→ クロス運転とは,中和器故障のためすでに運転を中止したイオンエンジンBのうち作動可能なイオン源Bと,イオン源不調で待機状態にあったイオンエンジンAのうち中和器Aとを,バイパス回路を介して電気接続し,新たな一式のイオンエンジンとして動作させるものです。この回路構成は,「こんなこともあろうか」と打上げ前にあらかじめ組み込んであったものです。(ISASニュース2010/01号:PDF)
※例の台詞をちゃっかり入れちゃう國中教授のお茶目さにご注目。彼はもともと「ヤマト」ネタをよく使う方ではありますが。(例1|例2)
一方で川口・國中両教授連名での学術関係者向けプレゼン(2010/01/07付:PDF)ではきちんと「誤解してはならない.これらは不具合である.」と釘がさされています。
05:45
Aの中和器、Bのイオン源、2つで1つのエンジンになる
マジです。
→
このため、使っていないエンジンAのイオン源と、エンジンBの中和器からも生ガスが噴出している状態。しかし、推進剤のキセノンは推定であと20kg残っている。残る加速に必要な量は5kgほどなので十分対応可能。
→
現状はAB2基のエンジンの使える部分を使って推力を得ている状態。これは地上試験を行っていない。打ち上げ前に、このような運転があり得ることは想定していたが、そもそもこのような運転はアースの関係で地上での試験ができなかった。
→
國中 はやぶさには帯電センサーが積んでいない。従って中和機のヘルスチェックができない。
※JAXAによる
宇宙開発委員会への報告資料ではわかりやすさを優先し「電圧上限リミット撤廃」という表現を使用。
何ですかその少年漫画のクライマックスに出てきそうな表現は。
真面目な話、とうとうヘルスチェックさえ捨てざるを得ない(重傷を負った者が痛み止めを大量投与して走っている)状況です。
06:14
役目を終えたはやぶさは大気圏に突入
マジです。しかしその軌道データも利用するのが科学者です。
→
「はやぶさ」が“最後のご奉公”、惑星衝突予測に活用へ
→
その他の大気圏再突入有効活用案
「Orbital pretty」『現代萌衛星図鑑』の
しきしまふげん氏による解説記事。
化学スラスタ全損でどうやって姿勢を制御したかの図解あり。必見。
はやぶさまとめニュース(まとめ管理人さん、おかえりなさい!)に「動画では扱われていない事象」も含めた
解説記事(ソース付)。必見。
おまけ:
有志作成「はやぶさ」FAQ(はやぶさまとめ)
しかしまさか「真田(さん)運用」という言い回しが「はやぶさ」スレッドの方言でなくなる日が来るとは(笑)。